国家間の戦争、という事象が起こるシステム
戦争という大量殺人が起こる、或いは起こさせるシステム。
敵が人種的に異なり、言語も宗教もイデオロギーも違うとなれば心理的距離は遠くなり、それだけ殺しやすくなる。
そもそも平時からすでに他民族との心理的距離をとっている人間、つまり自らが所属する民族集団の優位性を信じ、他民族を劣等と感じている人間は、戦時においてはたやすく殺人者へと変貌する。
~中略~
さらに戦う相手が論理的にも劣った、鬼畜に等しい連中だと徹底的に教え込めば、正義のための殺戮が開始される。
こうした洗脳教育は、あらゆる戦争で、あるいは平時にも、伝統的に行われてきた。
敵国人にジャップやディンクなどといった蔑称をつけるのが、その第一歩である。
※ジャップ:日本人 ディンク:ベトナム人
~『ジェノサイド』高野和明
心理的に相手との距離感があれば傷つけやすい、というのは納得。
親しい話では同じ高校というコミュニティにいる学生に対してある程度の親近感を持つのに対して、他校の学生に対しては敵愾心を持ちやすい、という事かな。
戦闘の最前線で発砲をためらう兵士も、敵を直接見ることのできない遠距離にいるだけで、より破壊力のある攻撃手段-迫撃砲の発射や艦砲射撃、航空機からの爆撃など-を躊躇なく使えるようになる。
~中略~
「殺戮兵器の開発は、敵をいかに遠ざけ、より簡単に大量の犠牲者を出すかに主眼を置かれてきた。素手で殴り殺すよりも刃物を、さらには銃器を、砲弾を、爆撃機を、果ては核弾頭を積んだ大陸間弾道ミサイルを、だ。」
~『ジェノサイド』高野和明
物理的距離感も相手を攻撃する気勢を助長する。
また、この過程において一人だけでなく多数-艦砲射撃であれば観測する、砲弾を運ぶ、詰める、発射を指示する、点火する、というように手順が多くなれば-罪悪感もまた分散される、というった心理的軽減もある。
人としての想像力が如何に重要か、ということがわかる。
戦争当事者の中で、最も残忍な意思を持つ人間、つまり戦争開始を決定する最高権力者ほど、敵からの心理的・物理的距離が離れた位置に置かれているということである。
~中略~
殺人にまつわる精神的負荷をほとんど被らない環境にいるからこそ、生来の残虐性を解き放つことができるのだ。
~『ジェノサイド』高野和明
このジェノサイドでは国家最高権力者が不幸にも想像力が貧困で安易に戦争を起こしてしまう、という事を描いている。
この真逆の性質を持つ国家最高権力者を描いているのが、沈黙の艦隊に登場するアメリカ合衆国大統領かな。
「寡ければ則ち必ず争う」
荀子の一節。
我々は『複雑な全体をとっさに把握する』のができないのと同様に、『無限に発達した道徳意識』を保有してはいない。
それは理性の問題ではなく、生物としての習性なのだ。
食欲と性欲の充ち足りた人間だけが世界平和を口にする。
しかし、一度飢餓状態に直面すれば、隠されていたい本性が即座に露呈する。
~『ジェノサイド』高野和明
獣欲と資本主義
社会生活の中に見られるあらゆる競争の原動力は、たった二つの欲望に還元されるようだ。
食欲と性欲だ。
他人より多く食べ、あるいは貯め込み、より魅力的な異性を獲得するために、人間は他者を貶め、蹴落とそうとする。
獣性を保持した人間ほど、恫喝や謀略とといった手段を用いて、組織と名付けられた群れのボスにのし上がろうとする。
~『ジェノサイド』高野和明
獣の生来持つ性格をそのまま人間に当てはめています。
賛否両論あるでしょうが、ある側面では正論かな、と。
資本主義が保障する自由競争は、こうした暴力性を経済活動のエネルギーへすり替える巧妙なシステムなのだ。
法で規制し、福祉国家を目指さない限り、資本主義が内包する獣欲を抑え込むことはできない。
~『ジェノサイド』高野和明
まあ、巧妙なシステムのお陰で絶滅の危機に貧していないのかしれませんね。